子犬を迎え入れたら

 

子犬を連れて来られた飼い主様向けにお配りしようと思っています。

ブログでも読めるようにUPしてみました。ご参考下されば幸いです。

 

 

はじめに

 

 

 当院では、これからわんことの生活をより充実した楽しいものにする為の「心構え」をお伝えしたいと思います。

 

 犬は人の子供と同じように「育てる」ことが出来る動物です。手をかけて育てれば理想のパートナーになる可能性が高くなりますが、可愛がっているだけでは将来困った行動をする子になる可能性が高くなります。

 

 人は何年も年月を重ねて徐々に成長していきますが、犬はたった一年で大人になってしまいます。

   生後2~3ヶ月→幼稚園児

     4~5ヶ月→小学生

     6~7ヶ月→中高生

        1才→成人(1720才)

 

 この最初の一年間、飼い主さんの時間をしっかりかけて「愛情」と「経験」を子犬に注ぎ込み、「ダメな事はダメ」と教えていきましょう。そうして育った子は、その後大いなる喜びに満ちた時間をたっぷりと共有してくれることでしょう。人間の子なら成長とともに憎まれ口をたたいて親離れしていくものですが、犬は一生親(飼い主)に依存して生活していくのです。

 

 こうした犬育てには、時間と大変なエネルギーが必要となりますので、周りの家族などの協力も必要です。しかし、大変なことばかりではなく「犬を育てていると人も育てられる」という喜びも感じて欲しいと願います。

 また、手をかけて育てた子は本当に可愛いはずですので、飼育放棄などの問題も出てこないはずではないでしょうか。

 

 こんな心構えに共感してくれる飼い主さんが増えて、問題行動の少ないわんこが多く育てられていくことを願うと同時に、こういった飼い主さんを応援していきたいと思っています。

 

 

 

現在の犬のペット事情

 

 

 現在の日本の犬の繁殖状況は、残念ながら決して良いとは言えない為、遺伝的に攻撃性や警戒心の強い犬が多く生まれています。

それと同時に、ペットショップでの陳列販売と誤った指導による問題行動の強化もあると感じております。

 

 一方、イギリスやドイツなどのヨーロッパでは、人の生活のしやすさに合わせることを目的とした繁殖が積極的に行われておりますので、元々攻撃性や警戒心を示さない犬がほとんどなのと、陳列販売が禁止されています。

 また、犬を育てて問題行動を起こさせないという意識がとても強いのも特徴です。問題行動のある犬がいると、その飼い主に指導する指導員もいて改善させることも行われているようです。

 

 こうした意識の大きな違いがある為、今の日本では英国流の褒めて育てるといった「犬育て」「しつけ」は基本的に合わないと思われます。

 

巡り合った子犬の性格が、とても温厚で特別な事をしなくても良い犬に育つのであればラッキーなのですが、そうではないケースがほとんどなのです。

 

そんなクジ引きのような事で飼い主さんの人生が振り回されるのではなく、皆さんが思い描いている理想の暮らしを高い確率で実現する為には、ウサギやカメなどの様に「飼育」するのではなく「育てる」という意識が大切だと思います。

 

特に最初の一年は、楽しいことよりも、これが将来的にエスカレートすると危ないかも!と感じて育てる「覚悟」も持って頂きたいです。

 

 

 

 

 

 

 

「飼育」というのは受け入れる感覚に似ているように思います。吠える・噛みつく・引っ張る・飛びつく・拾い食いをする…などの、犬が元々本能的に持っていて当たり前な行動を飼い主が正さず、結果それをしないように避けて生活していく状況になります。

 

例えば

・散歩に行っても他の犬や人に吠えるため、コソコソとしか散歩出来ない

・人を見ると興奮して飛びついて制御が効かないから人に会わせられない

・世間知らずで怖がってしまうので一緒にお出かけが出来ない

・拾い食いするから散歩に行けないし部屋にゴミ箱も置いておけない

 

 特に吠えるという行動は、チワワのような小型犬であろうが、ラブラドールのような大型犬であろうが、犬が発している意志・エネルギーは同じであり、人も犬も周囲を不快に感じさせてしまいます。

 

 

 一方「育てる」というのは、先々を予想し上記のような困った行動を正してあげたり、多様な機会を与えて良い所を伸ばしてあげたりと、積極的に関わりを持っていくことだと思います。

 

犬育ての最低目標は、困って避けなければいけない行動をなくし、普通の生活が“どこでも”出来るということでしょう。

 

あなたの愛犬は、災害時に避難所で周りの人に迷惑をかけずに自信を持って同伴できると言えますか?

 

 

理想の家庭犬とは

 

 

  1. 子犬を迎え入れたら、全身全霊に愛情を注ぎ込むのと同時に、その子の特徴をじっくり観察し、2週間程度でトイレトレーニングをほぼ完了する。

 

  1. 健康状態・感染症に十分配慮しながら、とにかく様々な場所に連れ回して色々な体験をさせる。

 

  1. 遊びは子犬がもう寝かせて欲しいと思うくらいとことん付き合い、甘噛みは“される”のではなく“させて”やりながら痛みを教え、その意欲を排除する。

 

  1. 他の犬と遊ばせたいのであれば、その子を怒らせない程度の接触と、子犬が恐怖体験にならないような相手をしっかり選ぶ。

 

  1. 生後5ヶ月頃から散歩を本格化し、歩きのルールを教える。

 

  1. 生後68ヶ月頃に去勢・避妊手術をする。

 

  1. 1才までに、他の犬との関わり方、ダメの意味、呼び戻し、羽目の外し方、言葉の理解を教え、心と体力の消費が一致した時に我が家の愛犬となる。

 

  1. 以降は、お利口さん度が上がるたびに待遇と思い入れが深くなるが、時には多少の修正が求められる。

 

  1. 愛犬と家族の、長く至極の時間が流れていく。

     

 

犬の育て方とは

 

 

  1. トイレトレーニング

     子犬のトイレトレーニングは「しつけ」ではなく、飼主さんがこれからわんこと暮らす上で必要な要素を育んでいくことです。

     しっかり子犬を観察し、我慢と失敗をさせることなく快適にトイレができる状況と環境を整えることが求められます。

    つまり、犬の行動パターンを自然と勉強しているということなのです。

 

  1. 混合ワクチン

     ペットショップや獣医さんの多くは、混合ワクチンが終わるまでは外に出さないようにと指示されます。さらにペットショップで、飼い始めの2週間くらいはケージやサークル内からなるべく出さないでと指示される事もあります。それは、子犬が病気にならないように「飼育」するという発想から生まれる考えなのです。

     しかしワクチンが終わる頃には生後34ヶ月となり、人で言ったら小学校入学くらいなのです。それまで一歩も外に出ず、家の中だけ、さらにはケージやサークル内での生活だけでは大切な社会性が一つも身に付きません。

     「育てる」という観点からすると、この時期にこそ外の環境を見せてあげることが絶対に必要なのです。

     ただ、病気になる心配も当然考えなくてはいけません。最低でも以下のことを守りながら社会経験を積んでいくと良いでしょう。

    ・天気の良い日に抱っこで外を見学する

    ・食欲、元気さ、便の状態など健康状態に問題がない

    ・見知らぬ人や犬とは接触しない

    ・不特定多数の犬が散歩しているような場所では下ろさない

    ・子犬の状態を確認しながら無理をさせずに切り上げる

 

 

  1. 甘噛み

     この時期の子犬は甘噛みするのが当たり前です。犬社会で育っていれば親兄弟とじゃれ合いながら噛む力を学んだりし、甘噛みであっても噛むことを段々許されなくなってくるのですが、その役割を飼い主である皆さんがやらなくてはいけないということです。

     甘噛みは放っておくと、将来何かの意思表示(嫌な事があった時、物事を要求する時など)に噛みつくという行為に発展していきます。

     しかし早い時期から叱りすぎてしまわないようにするのも大切です。叱ることによって、警戒心の強い子は人を怖がってしまい信頼できなくなる事もあるからです。

    遊びを介して意欲を落としていったり、おもちゃに気を持っていったり、時には痛みを教えてあげたりします。しかしながら子犬が生後45ヶ月(小学生)の時期までには甘噛みをすることのないように、信頼関係を確かめながら叱っていくと良いでしょう。

 

  1. 他の犬や人との関わり方

     子犬が初めて会う人は必ず信頼できる方であり、社会経験を目的としている事や興奮させたり怖がらせたりしないように伝えましょう。人は信頼できるんだという経験が大切だからです。

     犬に会わせる時も同様ですが、従順で穏やかな犬で混合ワクチンを接種していて病気を持っていないことも確認しましょう。そして相手を怒らせないように子犬を引き上げるタイミングも重要です。

     今後犬社会で生活するのではありませんので、無理して知らない犬と遊ばせなくてはいけないということはありません。恐怖心を植え付ける事だけは避けましょう。

 

  1. 本格的な散歩

     最近よく目にするのは、ハーネス・フレキシブルリードという組み合わせです。これは犬を自由にしているだけで犬育てには全く役に立たない事を覚えておきましょう。

     特にハーネスという道具は犬ぞりレースに使用されるものです。いざという時に制御が効かなくなるどころか、興奮状態にさせて引っ張る力をより強化するのです。

     ですから、首や喉の病気がなければ、必ず首輪と丈夫なリードという組み合わせにしましょう。散歩は飼い主さんと愛犬がコミュニケーションを育む大切な時間であるのです。

  2. 避妊・去勢について

     家庭犬として育てるためには必ず行いましょう。

    性的欲求というのは犬育てやしつけでは全く制御が効かないものです。散歩時などに他犬との関わりを悪化させますし、人や物に対しても異常な執着を覚えてそれを制御しようとすると攻撃性が生じたりもします。

    性的欲求が生じるのは個体差がありますが、早い子で生後7ヶ月頃から始まりますので、生後6ヶ月頃の手術を考えておきましょう。

    また、犬育てには関係ありませんが、将来高齢になってきたときの生殖器の病気予防という観点からもおすすめします。

 

  1. 服従訓練について

     「待て」とその解除だけはしっかり教えましょう。

    他の服従訓練は、犬育ての中ではそれほど重要ではありません。実は、犬育てをしているうちに自然と色々な事が出来るようになっていることがあるくらいです。そして犬育てが出来ていればいつでもすぐに出来ますので、飼い始めの頃から積極的に教えようとしなくて良いでしょう。

     

あとがき

 

 今回このような取り組みを行おうと考え始めたきっかけは、現在当院の看板犬である大吉を保健所から引き取ってからの「しつけ」の大変さを直接実感したのが始まりです。

また、診察中に飼い主さんからのしつけ相談が想像以上に多く寄せられており、どういったアドバイスをしていけば良いかを模索しておりました。

 

そんな中、元盲導犬協会の指導部長で100頭以上の盲導犬を育成し、現在「ドッグカフェ ナガサキ」のオーナーである長崎史明さんと出会い、その指導法にとても感銘を受けました。

 現在は家庭犬として暮らしやすい犬にする為の指導を行っていますが、長崎さんの指導は「犬を変えるには飼い主の意識が変わることが第一」という事をモットーに行っております。

 

 1歳過ぎた犬の問題行動を正していくのは、時間とエネルギーが余計にかかるのと、飼い主さんの意識改革も大変だという事を常に感じます。

 おそらく一般的な飼い主さんは「うちの子はしつけが悪くて…」とか「この子元々怖がりなんです」とか「吠えたらダメでしょ!ごめんなさいね」とかいう発言が多いのではないでしょうか?挙句の果てには、吠えてても当たり前のようになり、無頓着になっている方も多く見受けられます。

 こういった問題は、犬育てをちゃんとしていれば起こりにくい事なのです。

 

 では、1歳までの犬の育て方がとても重要だと知っている飼い主さんはどの位いるのか?と考えたところ、殆どいないように思われます。

 そこで、子犬を飼い始めたら最初に訪れる動物病院で「犬を育てる」という方法をお伝えしてみようと考えました。

 

最後に、この「子犬を迎え入れたら」は長崎さんが綴ったブログ「北の国から」を元に作成しました。また、作成にあたっては長崎さんのご協力の元で行わさせていただきました。

 

 ここまで読んでみて、もっと犬育てについて詳しく知りたいと思われた方は「ドッグカフェ ナガサキ」のホームページ内の「長崎塾」を読んでいただくか、直接長崎さんにご相談してみて下さい。