緩和ケア・ペットロスについて

ⓒOlga Kruglova
ⓒOlga Kruglova

 ●動物の高齢化

 近年、人では少子高齢化が進んできており、高齢者の医療では腫瘍の末期や慢性疾患などの、治らない病気を抱えている患者さんに対しての「緩和ケア」という言葉をよく耳にするようになってきました。

 現在、飼育されているペット達にも高齢化の波が訪れてきています。その理由として、近年における動物に対しての医療の進歩や、病気の予防に対する意識の向上、食事の改善などに伴い、寿命が長くなってきています。その為、動物も人と同じように、腫瘍や慢性疾患での死亡率が高くなってきているのも現状です。

 

 

 ●言葉を話せない動物

 人は、ある程度治療に対して本人の意思が尊重されると思います。しかし残念ながら、「動物は言葉を話せない」ので治療に対しての意思を示してくれることはありません。したがって、治療を進める上で我々獣医師と「飼主様」との話し合いで決める治療の選択(インフォームド・コンセント)が必要なことであるのは当然なこととなってきています。

 もう一つ残念なことは、その決めた治療に対して動物が納得しているかが分からないという事です。人は「もうこの治療は辛いから、もうやめて楽になりたい」「入院ではなく自宅で治療したい」など、治療途中で容易に方針転換することが出来ますが、動物はそうはいきません。治療中、元気に過ごしているのであれば飼主様が迷うことはありませんが、徐々に状態が悪化してくると不安に感じたり、介護が大変になってきたりと、様々な問題が次々と起きてきます。

 治らない病気での治療中、「この子は今幸せでしょうか?」と聞かれることがあります。しかし答えは「分かりません」としか言えません。ただし、必ず「飼主様が幸せならばこの子も幸せですし、不安に感じることがあればこの子も不安です」と付け加えます。

 また、「獣医さんは動物と会話ができる」という方がいますが、私の答えは「病気を発見して、何故苦しいのか・痛いのかは代弁出来ますが、会話は出来ません」です。毎日一緒に生活している飼主様の方が会話が出来ると思っています。毎日の世話で分かる動物の変化や訴えは飼主様にしか分かりません。

 つまり、「ペットの気持ち=飼主様の気持ち」と考えており、これが動物の緩和ケアにおいて大切であると感じております。

 

 ●ペットロスについて

 飼主様がこういった不安などを抱えて最愛の家族が亡くなると、その後立ち直る事の出来ない「ペットロス症候群」に陥るケースが多くなってきているように思います。

 ペットロスはその名の通り「ペットを亡くす」ということで、ペットを飼われている飼主様全員が必ず通る悲しい道です。その悲しみから立ち直るのは個人差がありますが、その子にどれだけの事をしてあげられたか、最期を迎える心の準備がどれだけ出来ていたか、飼主様が後悔のないように納得出来たかが関わってくると思います。

 最愛の家族の最期をどのように迎えてあげるのか。それが重要です。

 

 ●獣医師にできること

 動物の病気の発見・治療は当然ですが、その動物を介して飼主様と会話をするのがとても重要だと考えております。病気に対する疑問・治療方針にお答えするだけでなく、日々の介護の事や、その他・小さな不安でも、遠慮なく是非相談していただきたいと思います。

 また、最期を迎えるにあたっての心の準備に対して、少しでもお力になればと思っております。さらに、亡くなった後も飼主様のお気持ちが和らぐまでお力添え出来たらとも考えております。

 繰り返しになりますが、我々の仕事は「動物のケア」と「飼主様の心のケア」の両方が必要であると思っております。